基本理念・目標

臨床研修の基本理念

臨床研修は、「医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学および医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、一般的な診療において頻繁に関わる負傷又は疾病に適切に対応できるよう、基本的な診療能力を身に付けることのできるものでなければならない。」とされており(医師法第16条の2第1項に規定する臨床研修に関する省令)、これを東北大学病院臨床研修プログラムの基本理念とする。

  • 「医師としての人格」には、知性を磨き、徳を身につけ、優しさと献身性を示し、患者や医療スタッフから信頼される医師としての理想像が含意されている。
  • 「社会的役割」には、眼前の患者に最大限貢献することは当然として、人の集団、社会と医療の体制、公衆衛生へも注意を向けるよう喚起を促している。
  • 「基本的な診療能力」とは、将来携わる専門診療の種類にかかわらず、全ての医師に共通して求められる幅広い診療能力をいう。

臨床研修の到達目標

初期臨床研修における到達目標は、医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)、資質・能力、基本的診療業務、の3つの領域から構成される。

A.医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)

1.社会的使命と公衆衛生への寄与

社会的使命を自覚し、説明責任を果たしつつ、限りある資源や社会の変遷に配慮した公正な医療の提供及び公衆衛生の向上に努める。

2.利他的な態度

患者の苦痛や不安の軽減と福利の向上を最優先し、患者の価値観や自己決定権を尊重する。

3.人間性の尊重

患者や家族の多様な価値観、感情、知識に配慮し、尊敬の念と思いやりの心を持って接する。

4.自らを高める姿勢

自らの言動及び医療の内容を省察し、常に資質・能力の向上に努める。

B.資質・能力

1.医学・医療における倫理性

診療、研究、教育に関する倫理的な問題を認識し、適切に行動する。

  1. 人間の尊厳を守り、生命の不可侵性を尊重する。
  2. 患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。
  3. 倫理的ジレンマを認識し、相互尊重に基づき対応する。
  4. 利益相反を認識し、管理方針に準拠して対応する。
  5. 診療、研究、教育の透明性を確保し、不法行為の防止に努める。
2.医学知識と問題対応能力

最新の医学及び医療に関する知識を獲得し、自らが直面する診療上の問題に対して、科学的根拠に経験を加味して解決を図る。

  1. 頻度の高い症候について、適切な臨床推論のプロセスを経て、鑑別診断と初期対応を行う。
  2. 患者情報を収集し、最新の医学的知見に基づいて、患者の意向や生活の質に配慮した臨床判断を行う。
  3. 保健・医療・福祉の各側面に配慮した診療計画を立案し、実行する。
3.診療技能と患者ケア

臨床技能を磨き、患者の苦痛や不安、考え・意向に配慮した診療を行う。

  1. 患者の健康状態に関する情報を、心理・社会的側面を含めて、効果的かつ安全に収集する。
  2. 患者の状態に合わせた、最適な治療を安全に実施する。
  3. 診療内容とその根拠に関する医療記録や文書を、適切かつ遅滞なく作成する。
4.コミュニケーション能力

患者の心理・社会的背景を踏まえて、患者や家族と良好な関係性を築く。

  1. 適切な言葉遣い、礼儀正しい態度、身だしなみで患者や家族に接する。
  2. 患者や家族にとって必要な情報を整理し、分かりやすい言葉で説明して、患者の主体的な意思決定を支援する。
  3. 患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する。
5.チーム医療の実践

医療従事者をはじめ、患者や家族に関わる全ての人々の役割を理解し、連携を図る。

  1. 医療を提供する組織やチームの目的、チームの各構成員の役割を理解する。
  2. チームの構成員と情報を共有し、連携を図る。
6.医療の質と安全管理

患者にとって良質かつ安全な医療を提供し、医療従事者の安全性にも配慮する。

  1. 医療の質と患者安全の重要性を理解し、それらの評価・改善に努める。
  2. 日常業務の一環として、報告・連絡・相談を実践する。
  3. 医療事故等の予防と事後の対応を行う。
  4. 医療従事者の健康管理(予防接種や針刺し事故への対応を含む。)を理解し、自らの健康管理に努める。
7.社会における医療の実践

医療の持つ社会的側面の重要性を踏まえ、各種医療制度・システムを理解し、地域社会と国際社会に貢献する。

  1. 保健医療に関する法規・制度の目的と仕組みを理解する。
  2. 医療費の患者負担に配慮しつつ、健康保険、公費負担医療を適切に活用する。
  3. 地域の健康問題やニーズを把握し、必要な対策を提案する。
  4. 予防医療・保健・健康増進に努める。
  5. 地域包括ケアシステムを理解し、その推進に貢献する。
  6. 災害や感染症パンデミックなどの非日常的な医療需要に備える。
8.科学的探究

医学及び医療における科学的アプローチを理解し、学術活動を通じて、医学及び医療の発展に寄与する。

  1. 医療上の疑問点を研究課題に変換する。
  2. 科学的研究方法を理解し、活用する。
  3. 臨床研究や治験の意義を理解し、協力する。
9.生涯にわたって共に学ぶ姿勢

医療の質の向上のために省察し、他の医師・医療者と共に研鑽しながら、後進の育成にも携わり、生涯にわたって自律的に学び続ける。

  1. 急速に変化・発展する医学知識・技術の吸収に努める。
  2. 同僚、後輩、医師以外の医療職と互いに教え、学びあう。
  3. 国内外の政策や医学及び医療の最新動向(薬剤耐性菌やゲノム医療を含む。)を把握する。

C.基本的診療業務

コンサルテーションや医療連携が可能な状況下で、以下の各領域において、単独で診療ができる。

1.一般外来診療

頻度の高い症候・病態について、適切な臨床推論プロセスを経て診断・治療を行い、主な慢性疾患については継続診療ができる。

2.病棟診療

急性期の患者を含む入院患者について、入院診療計画を作成し、患者の一般的・全身的な診療とケアを行い、地域医療に配慮した退院調整ができる。

3.初期救急対応

緊急性の高い病態を有する患者の状態や緊急度を速やかに把握・診断し、必要時には応急処置や院内外の専門部門と連携ができる。

4.地域医療

地域医療の特性及び地域包括ケアの概念と枠組みを理解し、医療・介護・保健・福祉に関わる種々の施設や組織と連携できる。

臨床研修を行う分野・診療科

  1. 内科、外科、小児科、産婦人科、精神科、救急、地域医療を必修分野とする。また、一般外来研修を含めるものとする。
  2. 内科6か月以上、救急3か月以上、外科、小児科、産婦人科、精神科及び地域医療はそれぞれ1か月以上の研修を行う。
  3. 原則として、各分野は一定のまとまった期間に研修(ブロック研修)を行うことを基本とする。
  4. 内科研修には、入院患者の一般的・全身的な診療とケア、及び一般診療で頻繁に関わる症候や内科的疾患に対応するために、幅広い内科的疾患に対する診療を行う病棟研修を含む。
  5. 外科研修には、一般診療において頻繁に関わる外科的疾患への対応、基本的な外科手技の習得、周術期の全身管理などに対応するために、幅広い外科的疾患に対する診療を行う病棟研修を含む。
  6. 小児科については、小児の心理・社会的側面に配慮しつつ、新生児期から思春期までの各発達段階に応じた総合的な診療を行うために、幅広い小児科疾患に対する診療を行う病棟研修を含む。
  7. 産婦人科については、妊娠・出産、産科疾患や婦人科疾患、思春期や更年期における医学的対応などを含む一般診療において頻繁に遭遇する女性の健康問題への対応等を習得するために、幅広い産婦人科領域に対する診療を行う病棟研修を含む。
  8. 精神科については、精神保健・医療を必要とする患者とその家族に対して、全人的に対応するために、精神科専門外来又は精神科リエゾンチームでの研修を含む。
  9. 救急については、頻度の高い症候と疾患、緊急性の高い病態に対する初期救急対応の研修を含む。
  10. 一般外来での研修については、ブロック研修又は並行研修により、1か月以上の研修を行うこととし、症候・病態について適切な臨床推論プロセスを経て解決に導き、頻度の高い慢性疾患の継続診療を行うために、特定の症候や疾病に偏ることなく、原則として初診患者の診療及び慢性疾患患者の継続診療を含む研修を行う。
  11. 地域医療については、原則として2年次に行う。
  12. 全研修期間を通じて、感染対策(院内感染や性感染症等)、予防医療(予防接種等)、虐待への対応、社会復帰支援、緩和ケア、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、臨床病理検討会(CPC)等、基本的な診療において必要な分野・領域等に関する研修を行う。また、任意の研修として、診療領域・職種横断的なチーム(感染制御、緩和ケア、栄養サポート、認知症ケア、退院支援等)の活動に参加することや、児童・思春期精神科領域(発達障害等)、薬剤耐性菌、ゲノム医療等、社会的要請の強い分野・領域等に関する研修を行う。

経験すべき症候

外来又は病棟において、次の症候を呈する患者について、病歴、身体所見、簡単な検査所見に基づく臨床推論と、病態を考慮した初期対応を行う。

  1. ショック
  2. 体重減少・るい痩
  3. 発疹
  4. 黄疸
  5. 発熱
  6. もの忘れ
  7. 頭痛
  8. めまい
  9. 意識障害・失神
  10. けいれん発作
  11. 視力障害
  12. 胸痛
  13. 心停止
  14. 呼吸困難
  15. 吐血・喀血
  16. 下血・血便
  17. 嘔気・嘔吐
  18. 腹痛
  19. 便通異常(下痢・便秘)
  20. 熱傷・外傷
  21. 腰・背部痛
  22. 関節痛
  23. 運動麻痺・筋力低下
  24. 排尿障害(尿失禁・排尿困難)
  25. 興奮・せん妄
  26. 抑うつ
  27. 成長・発達の障害
  28. 妊娠・出産
  29. 終末期の症候

経験すべき疾病・病態

外来又は病棟において、以下の疾病・病態を有する患者の診療にあたる。

  1. 脳血管障害
  2. 認知症
  3. 急性冠症候群
  4. 心不全
  5. 大動脈瘤
  6. 高血圧
  7. 肺癌
  8. 肺炎
  9. 急性上気道炎
  10. 気管支喘息
  11. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  12. 急性胃腸炎
  13. 胃癌
  14. 消化性潰瘍
  15. 肝炎・肝硬変
  16. 胆石症
  17. 大腸癌
  18. 腎盂腎炎
  19. 尿路結石
  20. 腎不全
  21. 高エネルギー外傷・骨折
  22. 糖尿病
  23. 脂質異常症
  24. うつ病
  25. 統合失調症
  26. 依存症(ニコチン・アルコール・薬物・病的賭博)

※経験すべき症候及び経験すべき疾病・病態の研修を行ったことの確認は、日常診療において作成する病歴要約(病歴、身体所見、検査所見、アセスメント、プラン(診断、治療、教育)、考察等を含むものとする)に基づき行う。

経験すべき臨床手技・検査手技等

基本的診療能力を身に付けるため、患者の診療に直接携わることにより、必要な臨床検査や治療の決定方法、検査目的あるいは治療目的で行われる臨床手技(緊急処置を含む)等を経験する。

1.臨床手技
  1. 気道確保
  2. 人工呼吸(バッグ・バルブ・マスクによる徒手換気を含む。)
  3. 胸骨圧迫
  4. 圧迫止血法
  5. 包帯法
  6. 採血法(静脈血、動脈血)
  7. 注射法(皮内、皮下、筋肉、点滴、静脈確保、中心静脈確保)
  8. 腰椎穿刺
  9. 穿刺法(胸腔、腹腔)
  10. 導尿法
  11. ドレーン・チューブ類の管理
  12. 胃管の挿入と管理
  13. 局所麻酔法
  14. 創部消毒とガーゼ交換
  15. 簡単な切開・排膿
  16. 皮膚縫合
  17. 軽度の外傷・熱傷の処置
  18. 気管挿管
  19. 除細動等
2.検査手技
  1. 血液型判定・交差適合試験
  2. 動脈血ガス分析(動脈採血を含む)
  3. 心電図の記録
  4. 超音波検査
3.診療録
  1. 診療録の作成
  2. 各種診断書(死亡診断書を含む)の作成

達成度評価

オンライン臨床教育評価システム(PG-EPOC)を用い、医師及び医師以外の医療職が到達目標の達成度を評価する。
2年間の研修終了時に、研修管理委員会において臨床研修の目標の達成度を評価し、修了認定の可否について判定する。